18決算・運用状況のご報告(資産運用報告)

HCM安定の秘密

本投資法人についてもっと詳しく知っていただくための特集をお届けします。

オペレータ—特集

株式会社アズパートナーズ

科学的介護の実践が、
介護の現場に
変革をもたらす

2015年にHCMが組み入れた2施設を運営する株式会社アズパートナーズ。
「科学的介護」の実践を掲げ、
独自に開発したシステム「EGAO link®」が
話題となっています。
人材確保に大きな課題を抱える
介護業界にあって、新卒入社社員が
3年連続で170名を超えるなど、
注目を集めている理由に迫ります。

アズハイム文京白山
ケアチーフ

亜紀

取締役 兼 執行役員
兼 事業推進部部長

皇自

シニア事業部 チーフ
(介護福祉士)

沙織

当たり前のことだからこそ、
真摯に向き合う

アズパートナーズの成り立ちと概要についてお聞かせください。

山本(皇) 2004年の起業にあたり、「関わるすべての方々に必要とされる会社になりたい」との思いから、「あらゆる方々の最高のパートナーになりたい」という理念をつくりました。社名にもその思いを込めています。

介護事業を行うにあたり、高齢者だけが幸せになる社会を目指してもそれは実現不可能です。高齢者が幸せになるには、高齢者へのサービス提供だけではなく、そのご家族、従業員、取引先、地域を含めた、あらゆる方々の暮らしと幸せについて、世代を超えて考えられる会社にしていかなければならないと考えています。

設立当初から従業員の満足度を重視されていますね。

山本(皇) 会社設立に向けて、多くの他社施設を見学に行きましたが、どの施設もスタッフの方やご入居者様に“笑顔がない”と強く感じました。私たちがビジネスをするにあたり、働く人こそが笑顔にならないと、良いサービスは提供できないと考え、とにかく従業員を大事にしていくことを決めました。

ご入居者様への思いについてお聞かせください。

山本(皇) 私たちはシニアサービスの理念として、「お客様第一主義の精神」にはじまる「5つの誓い」があります。
5つの誓いには、ごく当たり前のことが挙げられています。しかし、この当たり前のことをできない企業は少なくありません。ですから大袈裟な理念を掲げるよりも、私たちはあくまでサービスを提供している会社であるとの前提に立ち、お客様のために何ができるのかを真剣に考えて、5つの誓いが生まれました。

山本(亜) 私はケアチーフとして、ケアスタッフをまとめていく立場ですが、「5つの誓い」で第一に考えるのは「お客様第一主義の精神」です。いろんな職種や年代のスタッフが働く中で、お客様を思うからこそ個々の「こうしてあげたい」という思いが溢れることがあります。それをすべきかどうか、自分よがりになっていないか迷うときには、ご本人やご家族が本当にそれを望んでいるのか、お客様第一主義に立ち返ることができます。5つの誓いは、どれもシンプルで当たり前だからこそ、それを実践していけるのだと思います。

シニア事業のほかに、不動産事業も展開されるメリットについてお聞かせください。

山本(皇) 弊社は基本的に土地の有効活用案件が多く、土地のオーナー様に建物を建てていただくのですが、実際に施設のオペレーションができる会社が建築まで考えるため、信頼感を持っていただけています。さらに高稼働率を生み出すための施策として、エリアマーケティングをかなり綿密に行い、エリアでの要介護認定者の数、供給率、競合プレイヤーの価格帯やブランド力などあらゆるデータを検証し、分析を行った上で展開しております。また、サービスの面でも評価されていることから、全てのホームが高稼働率で推移できております。

現場の声から生み出された
『EGAO link®』の開発

事業の強みについて、教えてください。

山本(皇) まずお客様お一人おひとりに対して、きめ細かなサービスを提供することを一番大事にしています。一方、お客様が望む暮らしはみなさま違いますから、丁寧に聞き取り、それをサービスとして実行していくことを大切にしています。

そして、今最も力を入れているのが、エビデンスに基づく「科学的介護」です。お客様の望む暮らしを実現するためにも科学的なアプローチは必要でした。というのも、従来型の介護で主流になっているようなスタッフの主観や感覚だよりでは、お客様が本当に求めていることや、お困りごとの判断もスタッフ側の感覚に拠るものとなってしまう。私たちはこれを解決すべき課題と捉え、お客様の抱える課題にスムーズにアプローチして解決するために、データに基づくエビデンスを活用しています。

科学的介護を実現するため、2017年に『EGAO link®』を開発しました。スマホ1台で記録入力、コール、見守りのすべてを可能にするシステムです。昨今、多くの企業がIT化に力を入れていますが、理想的な運用まで至らないという声も多く聞きます。私たちは、27ある事業所すべてに導入しており、そのすべてで有効活用できていることが大きな強みであり、事業のポイントです。

EGAO link®︎の開発の経緯についてお聞かせください。

山本(皇) 開発にあたって大きなポイントは、介護現場の生の声を受け止めたことです。現場では何に困っているのかを徹底的に聞き取りました。その結果、3つの課題が見えてきました。「記録」と「夜勤業務」と「ナースコール」によって、スタッフは常に業務時間の過多、非効率性、精神的なストレスのある状態でした。

こうした課題を解決するための仕組みを作ろうという発想でソリューションを構築したのです。最終的にメーカー4社との共同開発により、スマートフォン1台で、介護記録の入力からお客様の見守り、コール対応まですべてを管理できるシステムができました。

介護×ITで増える笑顔

EGAO link®の仕組み

現場のスタッフが感じていた「記録」「夜勤業務」「ナースコール」の3つの課題。「記録」では、介護記録を手書きやPCで入力しており、多くの時間が取られていました。「夜勤業務」は定期的な巡視で休む暇もなく、肉体的にも大きな負荷のかかる業務です。
「ナースコール」もご入居者の症状によっては頻繁に押されることもあり、常に「いつ鳴るだろう」と不安を抱えながらの業務になりがちです。

2017年に開発されたEGAO link®は、メーカー4社との共同開発によりスマートフォン1台で、ベッドでの寝起きの状態がわかり、ナースコールにも対応可能で、それがそのまま介護記録として管理されるシステムです。

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山本(亜) EGAO link®の導入時私は現場スタッフでした。導入当初は戸惑いもありましたが、仕組みがとてもシンプルで、記録の入力の仕方や、睡眠の状態がわかるセンサー「眠りSCAN(センサーを含むシステム名:眠りCONNECT)」、さらにお客様がお部屋でどう過ごされているかを確認する方法などの操作もすぐに慣れました。

最も効果的と感じるのが、「眠りSCAN」です。お客様が寝ている状態かがわかるため夜勤業務の負担が軽減されました。

それまでは3、4時間に1回の巡視をスタッフ2人で50人を回り、その都度記録を書いていました。それが今では、画面を確認することで例えば、横になっているけど目覚めていらっしゃる状態なのだなということまでわかるようになりました。

そのほか、常に「転倒されていたらどうしよう」という見えないリスクを不安に感じながら仕事をしていたのが、画面で確認できるようになったことで、精神的な負担もかなり軽減されました。もはや私たちの介護の現場にEGAO link®は手放せません。

山本(皇) EGAO link®のスタッフへの浸透を図るために、現場経験のある本社スタッフによる専属のサポートチームを立ち上げたのもポイントです。現場に対して新しいシステムを渡し、「はい、やってね」では反発を生むだけです。しっかり浸透するまで見届けるチームを組織化し、3名体制で1つの事業所に対して一定期間、常駐してサポートしました。

EGAO link®の導入により、介護では何か変化はありますか?

山本(皇) 感覚で行っていた介護から、データに基づく介護に変わりました。従来は「よく眠れない」というお客様がいた場合、スタッフから医師に「どうやら眠れていないそうです」と聞いたことをそのまま伝えるしかありませんでした。EGAO link®はお客様の睡眠の状態を可視化できますし、1日を通した睡眠の状態がデータ化され、グラフで視覚化されます。

例えばお客様の「よく眠れない」というお話も、介護にエビデンスがあることで、実は寝ている状態にあることが多く睡眠は十分とれているとわかることもあります。医師はデータを見て、実際の睡眠は十分なので睡眠導入剤は減らして良いと判断を下すこともできます。結果として、薬の副作用が軽減され、それが入院率の改善につながるといったことも起きています。

当社ではかつて入院率が4%ほどでしたが、EGAO link®の導入により2%程度まで低下しています。入院によるお客様の体の負担が減るだけでなく、入院代も削減できます。さらに、入院は当社としても外泊扱いになりますから、その分の介護報酬はありません。入院率の改善は収益の改善にもつながり、お客様と私たちにとってWin-Winとなります。

介護DXで進む業務効率化

EGAO link®導入効果

アズパートナーズでは、EGAO link®の導入による業務効率化で、介護スタッフの「仕事の質」に変化が生まれ、ご入居者とのコミュニケーションの時間が増えたといいます。

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アズパートナーズでは、EGAO link®の導入による業務効率化で、介護スタッフの「仕事の質」に変化が生まれ、ご入居者とのコミュニケーションの時間が増えたといいます。

  • 年齢・スキル関係なく、時間が創出されたので『夢を叶えるプロジェクト』の実施に向けた取組みなど、スタッフ全員がご入居者に向かえる環境が整った。

  • 睡眠状況がリアルタイムで確認できることにより、覚醒時に排泄介助に入れるようになりました。その結果、排泄介助の回数を1〜2回減らすことができ、ご入居者の負担が減りました。

  • 記録が一括送信できるのは業務の短縮になるのですごく楽です。またリアルタイムに情報がスマホで見れるので優先順位をつけやすくなりました。

介護DXで実現した
「夢を叶えるプロジェクト」

科学的介護によって、どのような変化が起きているのでしょうか。

山本(皇) EGAO link®の導入をはじめとして、アズパートナーズでは「介護DX」を進めています。介護DXによる介護業界における生産性の向上は、本来あるべき仕事に注力する時間を割くことができるようになることが、最大のポイントだと思います。間接業務をいかにDXで削減して、お客様とのコミュニケーションなどの時間を作っていくかです。

そうした視点では、2017年のEGAO link®の導入によって、その翌年から「夢を叶えるプロジェクト」というものが動き出しています。

榎本 「夢を叶えるプロジェクト」は、お客様のケアプランを立てて生活を支援していくにあたり、ケアプランの目標をより具体的にしていくことからはじまりました。というのもイメージとして、入居したらいろいろなことを諦めなければいけないと思われがちです。でも、決してそうではない。お客様を担当するケアスタッフとケアマネージャーを中心に、本当にお客様お一人おひとりにフォーカスを当てた目標を設定して、実行したいという思いがありました。

しかし、これまでは業務に追われてお客様の本当にやりたいことのヒアリングをする時間も確保できなかったのも事実です。EGAO link®︎の導入による業務効率があるからこそ、時間を捻出してお客様お一人おひとりとのコミュニケーションを取ることができるようになりました。

実際、「夢はなんですか?」と尋ねてみてもなかなか出てくるものではありません。日常の会話の中で“反応”が強いものから探っていく必要があります。これまでの人生の中で、どういう生活をされて、何を大切にされてきたかも考えながら、「こういうことを実現してみませんか?」と伺うと、「そうそう、そうなのよ」と言っていただくことがあります。それをヒントに例えば、「1年後の目標として、やっていきませんか?」などと夢が見えてくるのです。

山本(亜) 最近では、ご自宅が福島の方の夢が叶いました。そのお客様と関わるなかで、笑顔が見える瞬間が、ご家族のお話と福島で暮らしていた頃のお話でした。とはいえご自宅での生活に戻るのは難しい。そこで、ご家族と一緒に考えたのが、お正月に親戚のみなさんと過ごされるのを楽しみにされていたので、お正月をご自宅で過ごせるようにという夢です。

問題は車イスでの移動と、ご自宅では歩いてトイレに行かなければならないことでした。この問題をクリアするため、1年をかけて生活リハビリや栄養面にも配慮して体力をつけるようにしました。半年かけて1人の介助でトイレにも行けるようになり、ご家族にも事前にスタッフからケアのレクチャーをさせていただきました。移動については車イスが乗れる車をご家族がレンタカーでご用意いただいたりと、ご本人とご家族の努力で、お正月に1泊2日で福島に戻ることができました。

「夢を叶える」取組みは、スタッフの方々にも影響を与えそうですね。

山本(亜) 前述の福島のケースでは、ご家族が写真をたくさん撮ってくださって、それを見たスタッフはとても喜んでいました。介護業界を志す人は、人と関わりたい、人のために何か役に立つ仕事をしたいとの思いで入社される方が多いです。「夢を叶えるプロジェクト」をはじめ、当社ではお客様と関わる時間を確保できているので、大変なことはありつつも、仕事の中にやりがいや働きがいを見出しているスタッフが大勢います。特にお客様の笑顔が引き出せた瞬間や、小さいながらもやりたいことを叶えてあげられたことが、スタッフ本人の喜びにもつながっています。

山本(皇) 2024年4月の新卒入社も一昨年、昨年に引き続き170人を超える新入社員が入社しました。人手不足が叫ばれるなか、私たちの事業規模からすると、考えられないほどの注目度です。入社に際し行っている最終面接の中で、当社の何に魅力を感じているかを尋ねたところ、「EGAO link®」と「夢を叶えるプロジェクト」と答える方が多くいました。介護DXによって、若い方々が本当にやりたいことを実現できる職場に魅力を感じていただけていると実感しています。

介護業界全体へDXを
波及させていく

今後の取組みについて、お聞かせください。

山本(皇) 現在、特許出願中のケアプラン自動作成ツールやBIダッシュボードツールを通じて、当社内の介護DXの取り組みをさらに進展させるとともに、従来実施してきた介護DXコンサルティング事業を介護業界全体に本格展開してまいります。

今後も単に「ICT/IoT機器の活用・効果」に留まることなく、「データ分析から行動変容」を前提として、生産性向上ならびにその先の介護DX実現に向けたコンサルティングを実施していきます。

さらに私たちは、EGAO link®導入による働きやすさとやりがいを訴求し、当社の理念に共感する新卒採用の実績を積み重ねてきました。今後、業界全体にDXを波及させていたくめに、「介護DX人材」を持続的に輩出していく必要があると感じています。

アズハイム文京白山とアズハイム光が丘をHCMが保有するようになり9年。どのような変化があったでしょうか。

山本(皇) HCMより提供される他社の情報や、それにより他社比較ができるようになったことは、大きなメリットと感じています。当社の位置付けが可視化されますし、課題や強みも見えるようになりました。また定期的に多角的な観点でチェックしていただくことが、良い緊張感にもつながっており、健全な経営により近づいていけると考えています。

また、当社はおかげさまで2024年4月に東証スタンダード市場に上場することができました。今後はさらに市場から業績のみならず、ガバナンスについても注視されますから、HCMからのチェックが入ることは良い影響を及ぼすのではないでしょうか。

最後に投資主の皆様へのメッセージをお願いします。

山本(皇) 当社は現在、「そのあたらしさは、やさしさになる」というキャッチフレーズを掲げています。当社が提示する、DXに裏打ちされたこれまでにない“あたらしい”介護によって、私どもが目指すべき“やさしさ”のある介護の現場を提示していくことができると考えています。

そうした取組みにより、お客様に対してクオリティの高いサービスを提供していくことに、力を注いでいきたいと考えています。そのためには働くスタッフのやりがい作り、環境作りを介護DXによって推し進め、従業員の定着率のさらなる向上にもつなげていきたいと思います。今後の私たちの活動に期待していただきたいと思います。